酒飲みの日常

「いらっしゃい!」
 いつもの焼き鳥立ち飲み屋に入ると大将の威勢のいい声。
「んー、今日は黒ホッピーと、モモ、レバー、カワ、つくね、タレで。あとポテトサラダ」
 タレには黒ホッピー。幸せの味。串が焼き上がるまでの間にポテサラ半分で一杯飲む。
「中ください」
 おかわり焼酎をもらって黒ホッピーで割る。そうこうしているうちに焼き鳥が並ぶ。
 軽く七味を振ってレバーから。うまい。モモで一杯空にする。追加の中をもらってカワとつくねで一杯。これでちょうど黒ホッピーが空。
ガリチュウと紅生姜天、鶏唐揚、トマトコロッケ」
 ガリチュウってのは寿司のガリ、あれがプレーンなチューハイに入っているやつ。
 そして揚げ物は酒の友。上がるまでの間、ポテサラの残りでガリチュウを飲む。
「チューハイおかわりで」
 この店の良いところは、ガリチュウ飲んだあとにチューハイをそのまま入れてくれるところだ。一杯飲んだくらいじゃガリはまだまだ。私のような飲兵衛には実にありがたい。
 紅生姜天で一杯。さらにおかわりをもらってそれで鶏唐揚を食う。トマトコロッケに合わせてもう一杯もらった。
 コロッケに中濃ソースをかけてタバスコ振ったところで顔なじみの常連のタカヤさんがきた。すでに出来上がっている。立ち飲み屋のはしごが趣味だからな、タカヤさん。ビールを頼んで上機嫌に私に話しかけてくる。
「ねえねえ、寿限無って知ってる?」
 前の店で落語談義でもやってたんだろうか。いきなりな話題に面食らいつつも返事をする。
「そりゃあ、まあ……日本人なら知ってるだろ」
 私がそう返すとニンマリとする。奴がこういう表情をするときはたいてい相手をからかうときだ。
「じゃあさ、寿限無、言ってみてよ」
 酔っ払っている私が噛むことを期待している顔。
 私もすでに黒ホッピーで三杯、チューハイを三杯飲んだあと。そう、べろんべろん。
 喉を湿らせるために少しチューハイを飲む。よし、行くぞ。
「かくまでに、親は思うぞ千歳飴。なんてえことも言うほど、親の愛というものは大変に深いものでございます。
 ただその親の愛ってのも程度がありまして、深すぎるもの考えものでございます」
「違うそうじゃない」
 えー、枕からちゃんとやろうとしたのに。
 その後アテの外れたタカヤさんにめちゃくちゃ絡まれました。面倒くせえ……。

追伸:三千円でした